コロタイプ印刷とは

概要製版・印刷

■ 製版

【写真工程(製版準備)】

写真原稿(撮影ネガ)を密着、拡大・縮小して、製版用の反転密着ネガ(プリント複写)を作る作業です。線画や文字(写植)も密着ネガを作ります。このとき撮影ネガの階調が大変重要なポイントとなり、印刷の仕上がりを左右する大きな影響を及ぼすのです。

【製版工程】

印刷物にするための原板作成は、仕上げの寸法にしたネガを「割り付け」通りに貼り込む作業です。この作業には、次の二つの方法があります。それらは@ガラス乾板ネガをホルマリン液に浸して(5〜6時間)、フィルム・ベースから乳剤面を取り剥がした(脱膜処理した)ものを文字などともに「割り付け」に従ってガラス板に貼り込み、余白は墨で塗り込む「脱膜貼り込み方法」と、A原稿ネガを反転複製し、ネガの乳剤面とベース面とを逆にしたものを、「割り付け」に従ってマスク切りしたフィルム板に貼り込む「マスク貼り込み方法」です。

【青焼き】

現板への貼り込みが終了したら、次に青焼きを出します。オフセット印刷のように校正刷りをしないので、ここでのチェックは重要です。文字の訂正確認をすると同時に、写真の階調再現を見るのです。スクリーンを用いていないので、貼り込みネガに露光を促すための調整剤などを使用することで、青焼きと照合しながら適正な原板を作成します。
コロタイプの刷版は、厚ガラス板に下引き液を引き、クロムゼラチン感光液を流布し加温乾燥した版に、製版を終えた原板を密着焼き付けする作業です。

【下引き】

ガラスと感光ゼラチン膜との密着を良くするために、あらかじめ下引きをします。下引き液には水ガラス(硅酸ソーダ)を水で溶いたものにビールを加えるなど、何種類かがあります。これを洗浄したガラス板全面に流し、乾燥を行います。

【感光液】

コロタイプ感光液は、ゼラチンと重クロム酸カリウム、アンモニウムを水で溶いたものにアンソーコチンキや純アルコール、硝酸鉛(少量)を加えたものです。これが準備できたら、下引き液を施し乾燥したガラス板に流布します。感光液をムラなく一様に流布ができたら、乾燥箱に入れて加温乾燥します。

【焼き付け】

次に、感光版板の膜面と製版の終了したネガの膜面とを密着して、アーク灯などで焼き付けを行います。階調表現の調整のためにはオペレーターの判断によって、暗室で写真のプリントを焼くように覆い焼きなども可能です。
焼き付け終わったら、ガラス版板を水に浸し、ゼラチンに含まれる重クロム酸塩などを洗浄し感光性を失わせ、再び乾燥させれば印刷用刷版は完了します。水洗した直後のゼラチン膜は、わずかに画像の形跡や凹凸が見えますが、完全に乾燥すればそれらはほとんど見分けがつかなくなります。

■ 印刷

印刷に際しては、焼き付け・水洗・乾燥したガラス版板を再び水に漬けます(約15分)。そして版面の余分の水分を取り除き、版板を水平に設置してグリセリンと水とを混合した湿し水を十分に含ませます(5〜10分間)。これを不感脂化処理といい、これによってゼラチン膜は焼き付けによる露光(感光)量に応じて湿し水を吸収するのです。すなわち脂肪性インキの受け付け量は、感光量に比例して減少します。保水性の版は油性のインキと反発するので、湿し水を多く含む部分にはインキが着かず、その量の少ない部分ほど多く付着することになります。これによって撮影ネガに忠実で、かつ深みに富んだ階調を再現するのです。
湿し水にグリセリンを混合するのは、印刷中に水分が急激に蒸発乾燥するのを防ぐためです。水分が急速に乾燥しますと、インキの付着量がそれだけ増加しますので、印刷物の調子が急激に変わってしまいます。しかし、印刷面(水分の不要な部分)に湿し水が付着していると印刷ができませんので、この部分の湿し水は新聞紙などを巻きつけた水取り用のローラ−で版面上を転がして除去するのです。湿し水を含ませた直後はインキの乗りが浅く、刷り枚数に応じて膜面が乾燥し、徐々にインキの付着量が増えるので、一度に多くの枚数を通すことはできません(約50枚)。オペレーターはインキの着肉状態に応じて、適度に版面に湿し水を含ませるという工程を繰り返しながら印刷するのです。
版面の性質上、刷版は耐久力に欠けます。1版あたりの耐刷力は、通常500枚ぐらいで、多くても1000枚ぐらいが限度です。そのためインキも速乾性のものは不適当で、脂肪性であることが必要となります。コロタイプ印刷のインキは顔料または無機・有機レーキに植物性のアマニ油ワニスと合成樹脂系ニスを練り合わせたものです。これがオフセット印刷など一般の印刷用インキと違うのは、遅乾性で粘度の強いワニスを主として用いることにあります。

■ まとめ

コロタイプ印刷では、連続階調のネガティブを直接焼き付けるので、オフセット印刷の写真版のように調子の再現にアミ目を必要とせず、グラビア印刷のようにインキの濃淡を作るためのマス目を焼き込むなどの面倒もありません。原版に忠実なためグラデーションが豊富で、印刷した画像は極めて自然であるのが優れた特色です。またアート紙だけでなく、上質紙でも和紙にでも鮮明な印刷を可能とします。しかしながら版面がゼラチン膜であり、印刷速度も遅く耐刷力に欠けることから、印刷対象は写真図版を中心とした少部数のものに限られ、一般の印刷物に使用することはなくなっています。
コロタイプの印刷物はアミを掛けていないので、複写して2次資料に使用することも可能です。つまり印刷物が撮影した写真の焼き付け(オリジナル)と同等の資料価値を兼ね備えるのです。オフセット印刷における印刷技術の進歩は著しいものがあります。しかしながらコロタイプは、現在も「文化財の保護」には最も適した印刷方式として、重要美術品などの複製品をはじめ、文化財建造物の修理工事報告書や埋蔵文化財の発掘調査報告書、各種歴史的史料に係る出版物の方面で評価されているのです